2021.11.07
one of the most impressive games
全国高校サッカー選手権福島県大会の決勝が行われた。今年は11月3日準々決勝、6日準決勝、7日決勝という短期決戦のスケジュール。例年はそれぞれが1週間空く日程が多く、お互い休養をとって、対策を練って、万全の体制で臨むのだが、今年はそれが出来ない。だがそんな短期決戦を感じさせない、だれない、密度の濃い80分間の決勝戦は、私が中テレに勤めて31年余、3本の指に入る県大会決勝の名勝負となった←飽く迄、個人的な意見です。
県大会の歴史を織り交ぜつつ、きょうの決勝戦を振り返りたい。
決勝
尚志2-1学法石川
(尚志は2年ぶり12度目の選手権出場)
晴天の郡山市西部サッカー場、今年で第100回を迎える全国高校サッカー選手権福島県大会の決勝に、U22日本代表チェイスアンリ選手を擁する尚志が帰って来た。相手は、去年尚志が準決勝で敗れた学法石川。学法石川は去年尚志を破った実力で、初めて選手権県代表の座を獲得。2連覇のかかった決勝戦となった。
尚志は前日の準決勝、県立福島東相手に4-1で勝った。PKで1点を失ったものの、前半3点、後半駄目押しの1点で、4-1と勝利。福島東も勝利を諦めない粘り強い戦いだったものの、内容は圧倒的だった。
試合後記者から去年準決勝で敗れた事を意識したかとの質問に、仲村浩二監督は言下に否定した。
「目指すのは優勝ですから。去年の準決勝敗退は意識していなかったです。普段通りの試合をしよう、楽しむ、自然体、という話をしていたくらいですから。」
そして今年の尚志の強さは「総力」だと話した。
「今年は5日間で3試合ですから、選手全員でトータルで勝っていくという事を言ってあります。皆が疲れの無い状態で、常にベストの状態で戦っています。第1試合で早く休めるのが助かります。うちはサイドの選手が豊富ですから、あすは誰で行くか、当日ベストの人選で行きます。」
結果、準決勝から代えたのは、先発では右サイドバックの佐藤利明選手のみ。10人は準決勝の先発そのままだった。
一方の学法石川は準決勝の第2試合に登場し、帝京安積相手にオウンゴールで先制を許すと、後半追いつくが、再び勝ち越しを許し、残り5分で同点に追いつき、延長を戦い、それでも決着がつかずPK戦の末に決勝への切符を手にした。稲田正信監督は記者からの「お疲れ様です。」との言葉に、
「疲れちゃいました。」
と苦笑い。
「前半(プレーが)硬すぎました。怖さが頭を過るようではまだまだです。」
稲田監督は決勝で尚志と当たって、その上で尚志を下しての2連覇を目指していた。「怖さ」の意味については、決勝の後にこう話した。
「選手たちは、決勝で尚志に当たる前に負ける事の方が怖いんです。尚志相手であれば、後はやるだけですから。」
ただ準決勝の思わぬ試合展開にも、収穫を口にした。
「前半の半分で(気持ちを)切り替えて選手を交代しました。代わって出た2年生が活躍してくれました。トーナメントだと負けられないから、選手の交代も“守り”に入る、そうすると出場する選手としない選手に大きく分かれてしまうんです。ま、そこのバランスをとるのが監督の仕事なのですが…。でも今回は5日間で3試合というスケジュールの中、きょうは文字通り“全員で”勝てました。きょうの経験値は、練習の何百倍も価値があります。」
選手権の試合の経験の重みは、多くの監督が認めるところ。特に学法石川のGK池田翔選手はこの準決勝、PK戦で9人目のキッカーのシュートを止め決勝進出を決めた。それには、去年の全国大会でPK戦で起用されるも敗れた悔しい経験があったからだ。
「池田はあれから朝の練習でも、PK戦の敗戦を頭において練習していました。だからきょうのPK戦を勝てたんだと思います。そういう積み重ねがチームの歴史・伝統となり、ここ(選手権)に立ちたいと思う、その繰り返しですよね。私達は決勝で尚志と戦うんだ、その好循環を(毎年)生みたいんです。ま、本当は決勝はあさってに変えてほしいくらいですが、勝った勢いがあるし、選手はやってくれるんじゃないかと思います。」
決勝は、準決勝の先発メンバーから3人を代えて臨んだ。
きょうの決勝戦について個人的には、選手層も厚く、前日の疲れの少ない尚志に対し、学法石川が守りを固める展開を予想していた。だが先に惜しいシュートを放ったのは、学法石川だった。前半2分も経たない内に、クロスボールを完全にクリアしきれなかったこぼれ球に反応し、竹沢陸選手がボレーでシュートを放つ。更には前半11分、平田愛斗選手が左サイドをえぐって入れたクロスボールに金子晴琉選手がシュートを放つも、ここは尚志の守護神、鮎澤太陽選手が左足一本ではじき返す。学法石川は序盤から前線でプレッシャーをかけ、あわよくば高い位置で奪ってカウンター、奪えなくても自由なパスを出させない意図を感じさせる。
一方尚志は、サイドを起点に再三チャンスを作る。これが徐々に効き前半28分、尚志の村上力己選手が右サイドをドリブルでえぐるも学法石川のディフェンスがクリア、そのボールがこぼれ球を狙っていた尚志の佐藤利明選手の足元に。狙いすまして入れたクロスボールに、前線で張っていた小池悠斗選手がダイレクトでヘディングシュート!!サイド攻撃に加え、途切れない波状攻撃で、ついに尚志が均衡を破る。
―――因みに全国大会が首都圏開催となった昭和51年から過去45回の県大会決勝を振り返ると、実に34回は先制したチームが優勝を果たしている(勝率.756)。先制を許し逆転で優勝したのは9回(勝率.200)。残る2回はPK戦で優勝チームが決まっている。―――
この1点のリードを尚志が守り、前半を終了する。
後半先に動いたのは、1点を追う学法石川。佐藤武流・阿部吉平両選手を後半開始から投入すると、後半1分に阿部選手がドリブルで尚志の2枚がかりのディフェンスを突破し、短いクロスを入れると佐藤選手がシュート。ゴールネットを揺らせなかったものの、代わった2人が早速攻撃の形を作ってみせた。
だが尚志も攻撃の形が豊富で、後半5分にはディフェンスの裏に出たボールに反応した黒瀬舜選手がクロスを入れ、ボレーで小池選手がシュート。だがこちらも学法石川のGK池田選手の堅い守備に守られる。
そんなレベルの高いお互いの攻守にこのまま尚志が1点のリードを守り切るのではと思われた後半33分、学法石川、原田雄斗選手のロングスローに森隼真選手が2人のディフェンスを背負ってボールを落とすと、そこにいたキャプテンの円道竣太郎選手がゴールに背を向けた状態からゴール方向に反転しつつ強烈なグラウンダーのシュート。これが尚志の守護神鮎澤選手の左を抜け、ゴール右隅に突き刺さり、残り7分で学法石川が同点とする。
―――因みに全国大会が首都圏開催となった昭和51年以降の県大会決勝45回の中で、逆転優勝が9回、その内前後半80分以内での逆転は5回だ。中でも23年前の77回(平成10年)大会では、平工業が0-2から後半残り9分で3点を入れ、80分で3-2と逆転して磐城を下した。2点差を、しかも残り9分でひっくり返した決勝はこの1回だけだ。―――
こうなるといけいけどんどんになるのは、学法石川。後半37分、ディフェンスラインで尚志から円道選手がボールを奪うと、瞬時に尚志ディフェンス裏へ長いフィードボール。ここに俊足の佐藤選手が走り込み、1回ドリブル風のトラップをしてすぐにシュートを放つ。だがトラップ前は尚志のGK鮎澤選手と1対1だったが、そのトラップでボールを蹴り易い位置に置いた瞬間、尚志の入澤新大選手の捨て身のスライディングでシュートコースを狭める、それでも佐藤選手のシュートは無人のゴールへ行くが、僅かに左にそれる。じりじり佐藤選手との距離を詰めたGK鮎澤選手とスライディングの入澤選手がコースを狭めなければ、完全に1点ものだった。
アディショナルタイムは3分。だが学法石川の攻撃は止まらない。
―――因みに昭和51年以降の45回の県大会決勝の中で、PK戦にもつれ込んだのは過去4回。1回目は61回(昭和57年)の勿来工業対安積商業(現在の帝京安積)、2回目は翌62回(昭和58年)の安積商業対磐城(この年の安積商業は、全国大会でも全て0-0PK戦で県勢初のベスト8まで勝ち上がるという快挙を成し遂げる)、3回目は72回(平成5年)の磐城対福島東(いずれも左のチームが優勝チーム)。因みに4回目が今から6年前の94回(平成27年)の、奇しくも尚志対学法石川だった。この時は1-1(PK5-3)で尚志が勝っている。―――
後半40+1分、学法石川はまたもコーナーキックのチャンス。学法石川が逆転のゴールを決めるか?と思われるが、ニアへのコーナーキックを尚志のディフェンス高橋翔大選手がヘディングでクリア、それがルーズボールとなり、尚志の入澤選手が、前線右サイドにただ1人走っていた途中出場の草野太貴選手に向けて、縦の長いパスを出す。学法石川のディフェンスは近くに1人、やや離れて1人と、1対2の状況。だが草野選手はワントラップで近くのディフェンダーを置き去りにしてドリブルを仕掛ける。だがすぐに2人のディフェンダーも草野選手との距離を詰める、草野選手はボールをキープしながら仲間の上がりを待つ、すると尚志のゴールエリアでさっきまで守りに入っていたアンリ選手が、いつの間にか全速力で中央、ペナルティエリア近くまで上がってくる、そこに相手選手はいない、草野選手はトラップで2人のディフェンスを交わすと中央のスペースへグラウンダーのパス、そこに走り込んだアンリ選手はボールに合わせるようにランニングのスピードを落とし右足でトラップ、だが思ったところとは違うところにボールが流れたのか、今度は体の向きを反転させるようにする、それがシュートコースを消しに来る学法石川のディフェンダーをブロックするような形になる、シュートモーションに入ったアンリ選手は思いきり左足を振り抜く、そのシュートはコースを消しに来たディフェンダーの股を抜き、そのすぐ後ろにいた守護神池田選手の逆を突き、先程草野選手についていたディフェンダーがゴールライン際で掻き出す為に走ってスライディングをするが、ボールは僅かにそのディフェンダーの足の先を抜け、ゴールラインを割る!!!後半40+2分、今大会初得点のアンリ選手のゴールが勝ち越しゴールとなる。
残るアディショナルタイムも尚志が攻め、学法石川が最後までワンチャンスからの同点を狙うが、時間がない。最後はボールをキープした尚志が、2-1で勝利。2年ぶり12度目の優勝を決め、10度目の夏冬2冠(インターハイと選手権の県優勝)に輝いた。
―――因みに昭和51年以降の過去45回の選手権県決勝の結果、夏冬2冠を達成したのは21回(ただ去年は新型コロナウイルスの影響で夏の大会は無かったので、夏冬両方行われたのは過去44回となる)。その内、尚志は過去最高の10度の夏冬2冠達成。他に夏冬2冠を達成したのは郡山商業の4度、同じく4度の磐城、2度の福島東、1度の郡山北工業がある。―――
優勝した尚志の仲村監督は、優勝できた要因の一つに決勝ゴールを決めたアンリ選手の存在をあげた。
「全国大会に行きたいという思い、アンリが『自分が連れていきたい』と思ったからだと思います。アンリはU22で得た経験・知識をチームに伝えてくれています。」
また対戦した学法石川に対しては、
「対策もし、こちらの選手交代も巧くいったはず。それなのにここまで戦ってくる、それだけ全国大会で勝ちたいと言う想いの強いチームだと思いましたし…厄介なチームです。」
と称えた。そして仲村監督は、全国高校サッカー選手権大会への想いを改めて口にした。
「今年で100回を迎える選手権には私も高校生時代68回・69回大会に出場(千葉・習志野 高校)し、自分もこの大会で育ててもらいました。今回監督として100回大会に出場できるので、是非小学生に(尚志のサッカーを見て)『この選手権に出てプロサッカー選手になりたい』と思ってもらいたいし、感動を届けたいと思います。」
目指すはただ一つ、全国制覇。そして「最後のロッカールームも笑って出て来る事」である。
敗れた学法石川の稲田監督は
「よく頑張りました。きのう・きょう(の連戦)でどうなるかな、と思いましたが、これが高校生です、如何様にでもなるんですね。もっと走れない、もっときついと思ったんですが、相手(尚志)がこうさせてくれるんですね。」
と選手の成長に目を細めた。
夏はインターハイ予選にも負けて、新型コロナウイルスの影響で遠征も出来ず、チームの強化に苦しんだ。でも選手権大会に向けては、それが怪我の功名になったようで、
「この大会はノーシードから戦ったので、5試合出来ました。5試合の積み上げが無いと、きょうの決勝のような試合は出来なかったと思います。選手権を通じて成長させてもらいました。
きょうの決勝も良い経験をさせてもらいました。いま出来る事は選手達は最大限やりました。ただアンリ選手があそこで決めるのが尚志の強さです。最後の1プレーに拘らないと、上へは行けないんです。それを最後に決めるにはどうこの1年を過ごしたら良いのか、あすから日常で足りないものを埋めていかないといけないんです。きょうの試合で何に気付き、何に拘って生きていくかです。」
とこれからの課題も口にした。
以前の戦いの中では、相手に対応した戦い方をした時期もあったようだが、
「尚志に勝つには、小手先の戦術じゃ駄目なんです。引いて守って、では続かないんです。それではチームのフィロソフィーが無くなっていくんです。今回のように高い位置からプレッシャーをかけるからチャンスが生まれる。最後はやられたとしても仕方ありません。いつもなら延長にもっていくんですが、自分が選手に言うように『強気でいこう』と、カウンター(攻撃で失点するの)は怖いが、自分が思っている以上に選手達が出来ていたんで…。ただ選手にも私にも、最後の1ピース、何かが足りないのだと思います。」
そして改めて選手権大会の意義を話してくださった。
「私が口で言っても選手は分からないんです。(選手権の)決勝を戦うから見えるものや分かる事があるんです。だから選手にはいつも、西部サッカー場(で決勝を戦う)イメージをしようと言っています。今までだって勝ち上がって尚志と対戦する事で(年代別の)日本代表と戦える訳でしょ?アンリ選手もそうだし、嘗ては染野唯月選手(元尚志・元U17等の日本代表)ともそうです。そういう事も含めて、練習の何百倍も貴重な経験が出来るんです。」
選手権の決勝を戦った2校には、彼らにだけ見える「景色」があった。自分に足りない何かを、理屈でなく実感・体感できた。そういった選手たちを追う他の学校・チームがある。その切磋琢磨の中から今年以上に凄いチームが幾つも出てくるのを期待したい。
―――因みに選手権大会の歴史の中で、全国大会へ連続出場を果たしたのは磐城・福島工業・福島東・尚志の4校だけ。もし学法石川が勝っていれば去年に続いての連覇となり、歴代5校目の連続出場校となっていた。
因みに因みに、全国大会に出場できるのが1県1校でない時期を含めて県大会「連覇」を見ると、過去最高は7連覇の郡山商業(昭和45年~51年)、次が6連覇の相馬(昭和28年~33年)と尚志(平成26年~令和元年)である。去年尚志が勝って今年も勝っていれば、過去最高の8連覇の偉業達成となる筈だった。―――
オフサイドは手元の集計で両チーム1回ずつ、悪質なファウルがなく、両チームとも正々堂々がっぷりよつのサッカーで、展開・内容とも見応えのある「痺れる」決勝戦だった。見逃した方は是非「中テレアプリ」から決勝の模様をご覧頂ければ…。
県大会の歴史を織り交ぜつつ、きょうの決勝戦を振り返りたい。
決勝
尚志2-1学法石川
(尚志は2年ぶり12度目の選手権出場)
晴天の郡山市西部サッカー場、今年で第100回を迎える全国高校サッカー選手権福島県大会の決勝に、U22日本代表チェイスアンリ選手を擁する尚志が帰って来た。相手は、去年尚志が準決勝で敗れた学法石川。学法石川は去年尚志を破った実力で、初めて選手権県代表の座を獲得。2連覇のかかった決勝戦となった。
尚志は前日の準決勝、県立福島東相手に4-1で勝った。PKで1点を失ったものの、前半3点、後半駄目押しの1点で、4-1と勝利。福島東も勝利を諦めない粘り強い戦いだったものの、内容は圧倒的だった。
試合後記者から去年準決勝で敗れた事を意識したかとの質問に、仲村浩二監督は言下に否定した。
「目指すのは優勝ですから。去年の準決勝敗退は意識していなかったです。普段通りの試合をしよう、楽しむ、自然体、という話をしていたくらいですから。」
そして今年の尚志の強さは「総力」だと話した。
「今年は5日間で3試合ですから、選手全員でトータルで勝っていくという事を言ってあります。皆が疲れの無い状態で、常にベストの状態で戦っています。第1試合で早く休めるのが助かります。うちはサイドの選手が豊富ですから、あすは誰で行くか、当日ベストの人選で行きます。」
結果、準決勝から代えたのは、先発では右サイドバックの佐藤利明選手のみ。10人は準決勝の先発そのままだった。
一方の学法石川は準決勝の第2試合に登場し、帝京安積相手にオウンゴールで先制を許すと、後半追いつくが、再び勝ち越しを許し、残り5分で同点に追いつき、延長を戦い、それでも決着がつかずPK戦の末に決勝への切符を手にした。稲田正信監督は記者からの「お疲れ様です。」との言葉に、
「疲れちゃいました。」
と苦笑い。
「前半(プレーが)硬すぎました。怖さが頭を過るようではまだまだです。」
稲田監督は決勝で尚志と当たって、その上で尚志を下しての2連覇を目指していた。「怖さ」の意味については、決勝の後にこう話した。
「選手たちは、決勝で尚志に当たる前に負ける事の方が怖いんです。尚志相手であれば、後はやるだけですから。」
ただ準決勝の思わぬ試合展開にも、収穫を口にした。
「前半の半分で(気持ちを)切り替えて選手を交代しました。代わって出た2年生が活躍してくれました。トーナメントだと負けられないから、選手の交代も“守り”に入る、そうすると出場する選手としない選手に大きく分かれてしまうんです。ま、そこのバランスをとるのが監督の仕事なのですが…。でも今回は5日間で3試合というスケジュールの中、きょうは文字通り“全員で”勝てました。きょうの経験値は、練習の何百倍も価値があります。」
選手権の試合の経験の重みは、多くの監督が認めるところ。特に学法石川のGK池田翔選手はこの準決勝、PK戦で9人目のキッカーのシュートを止め決勝進出を決めた。それには、去年の全国大会でPK戦で起用されるも敗れた悔しい経験があったからだ。
「池田はあれから朝の練習でも、PK戦の敗戦を頭において練習していました。だからきょうのPK戦を勝てたんだと思います。そういう積み重ねがチームの歴史・伝統となり、ここ(選手権)に立ちたいと思う、その繰り返しですよね。私達は決勝で尚志と戦うんだ、その好循環を(毎年)生みたいんです。ま、本当は決勝はあさってに変えてほしいくらいですが、勝った勢いがあるし、選手はやってくれるんじゃないかと思います。」
決勝は、準決勝の先発メンバーから3人を代えて臨んだ。
きょうの決勝戦について個人的には、選手層も厚く、前日の疲れの少ない尚志に対し、学法石川が守りを固める展開を予想していた。だが先に惜しいシュートを放ったのは、学法石川だった。前半2分も経たない内に、クロスボールを完全にクリアしきれなかったこぼれ球に反応し、竹沢陸選手がボレーでシュートを放つ。更には前半11分、平田愛斗選手が左サイドをえぐって入れたクロスボールに金子晴琉選手がシュートを放つも、ここは尚志の守護神、鮎澤太陽選手が左足一本ではじき返す。学法石川は序盤から前線でプレッシャーをかけ、あわよくば高い位置で奪ってカウンター、奪えなくても自由なパスを出させない意図を感じさせる。
一方尚志は、サイドを起点に再三チャンスを作る。これが徐々に効き前半28分、尚志の村上力己選手が右サイドをドリブルでえぐるも学法石川のディフェンスがクリア、そのボールがこぼれ球を狙っていた尚志の佐藤利明選手の足元に。狙いすまして入れたクロスボールに、前線で張っていた小池悠斗選手がダイレクトでヘディングシュート!!サイド攻撃に加え、途切れない波状攻撃で、ついに尚志が均衡を破る。
―――因みに全国大会が首都圏開催となった昭和51年から過去45回の県大会決勝を振り返ると、実に34回は先制したチームが優勝を果たしている(勝率.756)。先制を許し逆転で優勝したのは9回(勝率.200)。残る2回はPK戦で優勝チームが決まっている。―――
この1点のリードを尚志が守り、前半を終了する。
後半先に動いたのは、1点を追う学法石川。佐藤武流・阿部吉平両選手を後半開始から投入すると、後半1分に阿部選手がドリブルで尚志の2枚がかりのディフェンスを突破し、短いクロスを入れると佐藤選手がシュート。ゴールネットを揺らせなかったものの、代わった2人が早速攻撃の形を作ってみせた。
だが尚志も攻撃の形が豊富で、後半5分にはディフェンスの裏に出たボールに反応した黒瀬舜選手がクロスを入れ、ボレーで小池選手がシュート。だがこちらも学法石川のGK池田選手の堅い守備に守られる。
そんなレベルの高いお互いの攻守にこのまま尚志が1点のリードを守り切るのではと思われた後半33分、学法石川、原田雄斗選手のロングスローに森隼真選手が2人のディフェンスを背負ってボールを落とすと、そこにいたキャプテンの円道竣太郎選手がゴールに背を向けた状態からゴール方向に反転しつつ強烈なグラウンダーのシュート。これが尚志の守護神鮎澤選手の左を抜け、ゴール右隅に突き刺さり、残り7分で学法石川が同点とする。
―――因みに全国大会が首都圏開催となった昭和51年以降の県大会決勝45回の中で、逆転優勝が9回、その内前後半80分以内での逆転は5回だ。中でも23年前の77回(平成10年)大会では、平工業が0-2から後半残り9分で3点を入れ、80分で3-2と逆転して磐城を下した。2点差を、しかも残り9分でひっくり返した決勝はこの1回だけだ。―――
こうなるといけいけどんどんになるのは、学法石川。後半37分、ディフェンスラインで尚志から円道選手がボールを奪うと、瞬時に尚志ディフェンス裏へ長いフィードボール。ここに俊足の佐藤選手が走り込み、1回ドリブル風のトラップをしてすぐにシュートを放つ。だがトラップ前は尚志のGK鮎澤選手と1対1だったが、そのトラップでボールを蹴り易い位置に置いた瞬間、尚志の入澤新大選手の捨て身のスライディングでシュートコースを狭める、それでも佐藤選手のシュートは無人のゴールへ行くが、僅かに左にそれる。じりじり佐藤選手との距離を詰めたGK鮎澤選手とスライディングの入澤選手がコースを狭めなければ、完全に1点ものだった。
アディショナルタイムは3分。だが学法石川の攻撃は止まらない。
―――因みに昭和51年以降の45回の県大会決勝の中で、PK戦にもつれ込んだのは過去4回。1回目は61回(昭和57年)の勿来工業対安積商業(現在の帝京安積)、2回目は翌62回(昭和58年)の安積商業対磐城(この年の安積商業は、全国大会でも全て0-0PK戦で県勢初のベスト8まで勝ち上がるという快挙を成し遂げる)、3回目は72回(平成5年)の磐城対福島東(いずれも左のチームが優勝チーム)。因みに4回目が今から6年前の94回(平成27年)の、奇しくも尚志対学法石川だった。この時は1-1(PK5-3)で尚志が勝っている。―――
後半40+1分、学法石川はまたもコーナーキックのチャンス。学法石川が逆転のゴールを決めるか?と思われるが、ニアへのコーナーキックを尚志のディフェンス高橋翔大選手がヘディングでクリア、それがルーズボールとなり、尚志の入澤選手が、前線右サイドにただ1人走っていた途中出場の草野太貴選手に向けて、縦の長いパスを出す。学法石川のディフェンスは近くに1人、やや離れて1人と、1対2の状況。だが草野選手はワントラップで近くのディフェンダーを置き去りにしてドリブルを仕掛ける。だがすぐに2人のディフェンダーも草野選手との距離を詰める、草野選手はボールをキープしながら仲間の上がりを待つ、すると尚志のゴールエリアでさっきまで守りに入っていたアンリ選手が、いつの間にか全速力で中央、ペナルティエリア近くまで上がってくる、そこに相手選手はいない、草野選手はトラップで2人のディフェンスを交わすと中央のスペースへグラウンダーのパス、そこに走り込んだアンリ選手はボールに合わせるようにランニングのスピードを落とし右足でトラップ、だが思ったところとは違うところにボールが流れたのか、今度は体の向きを反転させるようにする、それがシュートコースを消しに来る学法石川のディフェンダーをブロックするような形になる、シュートモーションに入ったアンリ選手は思いきり左足を振り抜く、そのシュートはコースを消しに来たディフェンダーの股を抜き、そのすぐ後ろにいた守護神池田選手の逆を突き、先程草野選手についていたディフェンダーがゴールライン際で掻き出す為に走ってスライディングをするが、ボールは僅かにそのディフェンダーの足の先を抜け、ゴールラインを割る!!!後半40+2分、今大会初得点のアンリ選手のゴールが勝ち越しゴールとなる。
残るアディショナルタイムも尚志が攻め、学法石川が最後までワンチャンスからの同点を狙うが、時間がない。最後はボールをキープした尚志が、2-1で勝利。2年ぶり12度目の優勝を決め、10度目の夏冬2冠(インターハイと選手権の県優勝)に輝いた。
―――因みに昭和51年以降の過去45回の選手権県決勝の結果、夏冬2冠を達成したのは21回(ただ去年は新型コロナウイルスの影響で夏の大会は無かったので、夏冬両方行われたのは過去44回となる)。その内、尚志は過去最高の10度の夏冬2冠達成。他に夏冬2冠を達成したのは郡山商業の4度、同じく4度の磐城、2度の福島東、1度の郡山北工業がある。―――
優勝した尚志の仲村監督は、優勝できた要因の一つに決勝ゴールを決めたアンリ選手の存在をあげた。
「全国大会に行きたいという思い、アンリが『自分が連れていきたい』と思ったからだと思います。アンリはU22で得た経験・知識をチームに伝えてくれています。」
また対戦した学法石川に対しては、
「対策もし、こちらの選手交代も巧くいったはず。それなのにここまで戦ってくる、それだけ全国大会で勝ちたいと言う想いの強いチームだと思いましたし…厄介なチームです。」
と称えた。そして仲村監督は、全国高校サッカー選手権大会への想いを改めて口にした。
「今年で100回を迎える選手権には私も高校生時代68回・69回大会に出場(千葉・習志野 高校)し、自分もこの大会で育ててもらいました。今回監督として100回大会に出場できるので、是非小学生に(尚志のサッカーを見て)『この選手権に出てプロサッカー選手になりたい』と思ってもらいたいし、感動を届けたいと思います。」
目指すはただ一つ、全国制覇。そして「最後のロッカールームも笑って出て来る事」である。
敗れた学法石川の稲田監督は
「よく頑張りました。きのう・きょう(の連戦)でどうなるかな、と思いましたが、これが高校生です、如何様にでもなるんですね。もっと走れない、もっときついと思ったんですが、相手(尚志)がこうさせてくれるんですね。」
と選手の成長に目を細めた。
夏はインターハイ予選にも負けて、新型コロナウイルスの影響で遠征も出来ず、チームの強化に苦しんだ。でも選手権大会に向けては、それが怪我の功名になったようで、
「この大会はノーシードから戦ったので、5試合出来ました。5試合の積み上げが無いと、きょうの決勝のような試合は出来なかったと思います。選手権を通じて成長させてもらいました。
きょうの決勝も良い経験をさせてもらいました。いま出来る事は選手達は最大限やりました。ただアンリ選手があそこで決めるのが尚志の強さです。最後の1プレーに拘らないと、上へは行けないんです。それを最後に決めるにはどうこの1年を過ごしたら良いのか、あすから日常で足りないものを埋めていかないといけないんです。きょうの試合で何に気付き、何に拘って生きていくかです。」
とこれからの課題も口にした。
以前の戦いの中では、相手に対応した戦い方をした時期もあったようだが、
「尚志に勝つには、小手先の戦術じゃ駄目なんです。引いて守って、では続かないんです。それではチームのフィロソフィーが無くなっていくんです。今回のように高い位置からプレッシャーをかけるからチャンスが生まれる。最後はやられたとしても仕方ありません。いつもなら延長にもっていくんですが、自分が選手に言うように『強気でいこう』と、カウンター(攻撃で失点するの)は怖いが、自分が思っている以上に選手達が出来ていたんで…。ただ選手にも私にも、最後の1ピース、何かが足りないのだと思います。」
そして改めて選手権大会の意義を話してくださった。
「私が口で言っても選手は分からないんです。(選手権の)決勝を戦うから見えるものや分かる事があるんです。だから選手にはいつも、西部サッカー場(で決勝を戦う)イメージをしようと言っています。今までだって勝ち上がって尚志と対戦する事で(年代別の)日本代表と戦える訳でしょ?アンリ選手もそうだし、嘗ては染野唯月選手(元尚志・元U17等の日本代表)ともそうです。そういう事も含めて、練習の何百倍も貴重な経験が出来るんです。」
選手権の決勝を戦った2校には、彼らにだけ見える「景色」があった。自分に足りない何かを、理屈でなく実感・体感できた。そういった選手たちを追う他の学校・チームがある。その切磋琢磨の中から今年以上に凄いチームが幾つも出てくるのを期待したい。
―――因みに選手権大会の歴史の中で、全国大会へ連続出場を果たしたのは磐城・福島工業・福島東・尚志の4校だけ。もし学法石川が勝っていれば去年に続いての連覇となり、歴代5校目の連続出場校となっていた。
因みに因みに、全国大会に出場できるのが1県1校でない時期を含めて県大会「連覇」を見ると、過去最高は7連覇の郡山商業(昭和45年~51年)、次が6連覇の相馬(昭和28年~33年)と尚志(平成26年~令和元年)である。去年尚志が勝って今年も勝っていれば、過去最高の8連覇の偉業達成となる筈だった。―――
オフサイドは手元の集計で両チーム1回ずつ、悪質なファウルがなく、両チームとも正々堂々がっぷりよつのサッカーで、展開・内容とも見応えのある「痺れる」決勝戦だった。見逃した方は是非「中テレアプリ」から決勝の模様をご覧頂ければ…。
―――因みに、こちらは会場の西部サッカー場にあったパイプ椅子。日本女子工業高校が寄贈したもののようですが、この学校をご存じですか?優勝した尚志高校の元の校名なんですよ。日本で初の女子だけの工業高校として昭和39年(前の東京五輪開催の年)に創立。平成2年に普通科で男子を受け入れるようになり、今の尚志高校となりました。平成9年に出来たサッカーの同好会が、のちの尚志高校サッカー部です。―――
会場の我々の控室の椅子に「日本女子工業高校」と…。これは…… |
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